今週の全員営業(R)のポイント 第6話: 権限委譲と放任の違い
今回のコラムは、営業×育成×組織のすべてに関連する内容をお伝えします。
過去25年間、私が見聞きしてきた中で、創業10年、社員30人以上の
企業で、この課題に悩まされてない企業は一つもないくらい重要な要素です。
会社というのは、複数の人が集まって仕事をする場である以上、各人が勝手なこと
をやっていては収集がつかなくなります。かといって、一つ一つ経営者が指示命令
しないと動かないようでは、話になりません。
経営者の役割を一部分担することで、会社で行うビジネスを効率的かつ極大化する
ことが組織の最大の目的です。
しかし、ここで、一つ大きな課題が出てきます。
それが、今回のコラムの権限委譲です。
権限委譲というと大げさに聞こえるかもしれませんが、営業現場で必要なのは、
仕事の分担と、そのやり方の明示です。
しかし、中小企業の場合、創業経営者は営業出身者が多く、その辺りは細かな機微に
いたるまで身体にしみついているので、いちいち書面にしたりしません。
「仕事は最後まできちんやれ」、「あの件はちゃんとできたか」
日常よく使われるこの2つのフレーズには、それが集約されています。
中途入社や異業種から転職してくる人が多い企業では、そのような感覚的なもの
だけでは理解が不十分です。そして、経営者と営業マンの両者ともがストレスを
抱えることになります。
原因の一つは、経営者がやらないといけない仕事と、管理職がやる仕事と、
社員に任せていい仕事の範囲が会社の中で不明確なことが原因です。
社員の育成や、研修をする上でも、そこがはっきりしていないと、実施する意味は
ありません。教育や研修の効果があがるのは、会社の経営戦略が明確で、その戦略
と参加者の役割分担と、教育・研修の内容があっているときだけだからです。
なお、今回のコラムの内容には2つの意味があります。上記は、組織として最大効果
を発揮するための権限委譲であり、いわば必要条件です。しかし、営業現場が健全
かつ意図する様に動くには、十分条件がもう一つ求められます。
それは、営業の管理職(時には経営者)が、部下を育てるとき、部下に指示をだす
ときの原則理解とルールの共有化です。
経営者が思った通りに現場が動かないとき、トラブルが発生したとき、営業の管理職に
それを問いただすと、
「部下には、○○しろと言いました」という言葉が返ってくることがあります。
この言葉が返ってきたときは要注意です!。
本来、営業の管理職は、経営者を真似したり、その指示をそのまま伝書鳩のように
伝達する事が仕事ではありません。時折、営業の管理職を社長の分身をつくる目的
で育成しようとする企業もありますが、ほぼ間違いなく失敗します。
求められる役割そのものが違うので、中小企業では、誰一人として経営者(社長)の
代わりはできないのです。
営業の管理職がする仕事は、経営者の出した経営戦略や営業計画をもとに、現場の
実務遂行を担うことです。それは、現場で数字をあげるのとは要求される能力が
違ってきます。優秀な営業マンであることと、優秀なマネジャー・部下指導者で
あることは、本質的には種類がまったく違うのです。
部下が2~3人までなら、営業の管理職がプレイング・マネジャーとして数字を
あげれば、ある程度の業績は達成できるでしょう。それを決して否定はしません。
結果は同じでも、方法論は数多くあるものです。
しかし、部下が5人を超えると、管理職1人ががんばっても部門全体の業績を
カバーするのは、その数字の大きさからいって難しくなります。そうなると、
単なる掛け声や精神論ではなく、部下が何をどう行えばいいかを言動レベルで
明確にすることが求められます。
ここで重要になるのが、部下が何をどう行えば、現場で業績があがるかを明確に
するのは、中小企業では経営者の仕事になるということです。会社経営の根幹に
関わることである上に、究極のところ、中小企業では経営者の意思にそぐわな
ことは長続きしないからです。
営業の管理職は、それを見出すための現場情報や知見を提供することはできますが、
最終的に、業績があがる要素が何かを見つけ出し、どうすれば現場の人間が理解
できるかを判断し、現場への徹底を意思決定するのは、経営者だからこそ担える
大きな仕事です。
本日お伝えした2つの内容が整うことが、部下が自律的に動いてもらうための
仕組み作りとその下地であり、すべての社内の仕事において適切な権限委譲が
できるかどうかの分かれ目となります。
そして、それは経営者だけでは完成しないし、管理職だけに任せても作ることが
できない、“両者の協働作業”であるといえるのです。